たいやきさんは本を読む

臨床心理士・公認心理師の読書ブログ

565冊目、松本俊彦『もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応』☆☆☆☆

一番気に入ったことば「人は最後まで迷っている」

 

 

事業所で「死にたい」と言う子がいます。私は心理士なのでその言葉を受容し、否定的な言葉をかけることはありませんが、一般の方なら、「そんなこと言うもんじゃない」と単に否定したり「親に貰った命を大切にしなさい」と説教したり、「生きてたら良いことあるよ」などと一般論を言ったりすることが多いと思います。

 

著者も最後の方で述べているように、「どうして自殺を予防しなきゃいけないのか?」、「覚悟の自殺、徹底的に理性的な自殺もあるのではないか」という質問をする人は、自殺のことを何も知らないのでしょう。

 

加えて、切腹尊厳死の話を持ち出す人も、自殺の現状を分かっていないと言えるでしょう。それらは精神医療における自殺の現実と、関連はあっても似て非なるものです。

 

この本は職員の方にも「死にたい」と言われたらどのように返すか、専門的な内容も含めて知ってほしい、また私自身も自殺の心理を改めて学びたいと思って読みました。

 

この本に非常に好感が持てたのは、研究・調査のデータを元に自殺リスクと対応の考え方が学べると共に、心理学的剖検の重要性(ケース研究ともいうべきか)、そして著者の冷静ながらも感情的な記述が垣間見られる文章にあったと思います。

 

対人援助を行っていて、自殺リスクに対応する必要があるなら、一読をお勧めします。

 

 

 

 

また、私自身の「死にたい」と思う気持ちとも向き合い、それを予防する為に、あるいはそうなった時にそうすべきか改めて考えさせられました。