一番気に入ったことば「情動調律」
理論としてはどうかと思いますが、認知発達の研究を行っている身として、共感が環境と自己との相互作用から構成されていくという考えはまったくの嘘とは言い切れない。
自己と他者との関係を分離していくことは、どうやら遺伝子にプログラムされているようですが、その関係をどのように捉えるかは生活環境に依るのではないでしょうか。
この本はいくつかの雑誌等に記載された著者の記事をまとめて一冊の本にしたものです。
それ故に読んでいると、別な節で同じ内容の文章がいくつも散見します。
基本的に事例報告プラス臨床心理学的理論と考察といった体裁ですが、この本の著者は、精神力動論を基盤にしたカウンセリングをするようです。
事例についての論旨の進め方が、常に過去志向なのが精神力動論の特徴です。
精神力動論は、教科書的に言うと、現在の心の問題は必ず過去の経験において何らかの原因となる出来事があり、その原因を探ることが重要であり、且つ問題解決に繋がるという考え方をする立場です。
僕自身カウンセリングにおけるこの立場については批判的ですが、その推論自体は面白いと思います。
原因と結果が一対一対応でないのは最近の哲学やシステム論では当たり前ですが、やはり人は一つの結果を一つの原因に帰属したいという願望があるのではないでしょうか。
著者の論旨を客観的に見ることができるなら、臨床心理における事例を多数見られる良い本だと思います。
- 作者: 渡辺久子
- 出版社/メーカー: 金剛出版
- 発売日: 2000/05
- メディア: 単行本
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