(493冊目読了)東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』☆☆☆☆☆

一番気に入ったことば「依存労働」

 

昨年秋くらいから余暇時間を携帯ゲームに吸われて本を読むスピードが落ちてしまいました(>_<)ので久しぶりの投稿です。

この本は、著者が精神障害者デイケア施設で働いた経験を元に、エッセイ形式でケアとセラピーについての考察を行う内容になっています。

非常に軽快な文章で、時折著者が自分自身を俯瞰するような場面もあり、最後まで楽しく読めました。

医療・福祉分野で働く臨床心理士(や公認心理師)は、現場において多かれ少なかれケアとセラピーの区別や統合、そしてその狭間について悩むことがあるのではないでしょうか。

私自身児童発達支援・放課後等デイサービス事業所で主に発達障害の子らの支援を行っているので、著者の現場とかなり類似した部分が多く、心理臨床の専門家としてこの会社に入ったのに、やってることは殆どサイコセラピー(心理治療)とは異なることに違和感を覚えながら日々仕事をしています。

勿論、私が提供する療育活動はセラピーの時間だし、保護者面接では心理検査やカウンセリングの技術を発揮することもありますが、それらは仕事全体の中ではおまけみたいなものです。

私の働く事業所は知的障害の子が多く日によっては10人中9人と十分な言語コミュニケーションができないなんてザラです。毎日無力感を覚えながらの仕事ですよ(>_<)

 

…単なる愚痴ですね

 

この本を読んで、もやっとした不全感に名前を付けることができ、少し救われた部分もあります。気に入ったことばの「依存労働」とは、誰かにお世話してもらわないとうまく生きていけない人のケアをする仕事です。これは専門的な仕事とは反対に位置する労働とされる。それ故に私自身依存労働をさせられている感覚に「心理臨床の専門家とは…」と葛藤することが多かったと思われます(依存労働が嫌なわけではない)。

また、著者が考察していた、枠のない中でのセラピーもどきの副作用、動く前に考えることが癖になっているので、問題が起きた(起こりそうな)場面で心理士が他のスタッフよりも動作が2呼吸遅れてしまうこと、セルフモニタリングを学んできた著者と看護師の方々との利用者への向き合い方への違い、遊びの治療的効果、職員へのケアが不足していることなども私自身仕事で同じように感じたり考えたりしたことだったので、著者と共感的対話ができたことによるセラピー的な効果があったかもしれません。

 

ただ、私個人はセラピーとケアは必ずしも対比されるものではないと思います。というのは、ケアには身体的なケアや生活上のケアの他に、心理的なケアも含まれると思うからです(著者はこれらを一括りにケアと呼んでいる)。そして心理的なケアは心理臨床の知識・技術を大いに発揮できるし、セラピーを行う中で同時進行で行われる必要のあるものです。

 

また、著者は2017年からカウンセリングルームを開業し、心理臨床家としてセラピーに特化した仕事を生業としています。それはケアの否定なのでしょうか。心理臨床家はセラピーに従事するべきだという著者の答えのような気もします。

 

専門家としての自分と現場の仕事との間に葛藤がある臨床心理士公認心理師の初学者には是非読んでいただきたい一冊です。