(513冊目)杉原保史『プロカウンセラーの共感の技術』☆☆☆☆☆

一番気に入ったことば「「受容」「共感」「変化促進」、この三つは、相互に手に手を取り合ってらせん状に深まっていくものです」

 

この本は一般向けのものですが、カウンセリングの専門家に必読と言っていいほど共感の技術が沢山詰め込まれています。

私自身、カウンセリングの技術についてはそれなりに学んできましたが、それでも尚学ぶべきものがいくつもあったし、改めて気づかされる文言や、考察に値する文言もたくさんありました。

 

 

日頃、私が出会った人々の多くは、共感や受容をする人が少なく、それらはカウンセラー等特殊な職業にとっての特殊な技術だと思っていました。

筆者は

現代社会のさまざまな現実が、「身近な人たちに共感してはいけない。そういうものを切り捨ててこそ、豊かに生きることができる。勝ち組になることができる」と暗黙のメッセージを伝えてきます。p.26

と述べます。

どうやら現代社会では、共感することで自分が不利益を被ることがある。逆説的に共感性を排除し他者との戦いに勝ち抜くことが推奨されるようです。それを筆者は「共感への恐れ」と述べます。

それ故に人と人との温かい関係性が失われ、人と人とがやり取りすればするほど寂しさや虚しさが増してしまうのかもしれません。

 

 

この本を読んでいて、共感の技術を用いた著者の例文が載っているのですが、最初は読んでいて、この人自己開示、自分の考えを言い過ぎでは?と疑問に思っていました。しかしその疑問に対する筆者の答えが中盤に記述されていました。

共感を伝えるコメントでは、相手の気持ちを話題にすることと、自分の感じたことを告白すること(自己開示)との区別は曖昧になります。共感においては、私とあなたの境界線が曖昧になるからです。それこそが共感の世界になります。p.122

加えて

共感を示すことは、しばしばチャレンジであり、賭けでもあります。(中略)相手のために伝えたいことを伝える。伝えないときっと後悔するから。怖くても、思い切って(ただし穏やかに)そういう想いを伝える。それが共感です。p.131

ここから考察すると、共感とは、話し手と聞き手の2者関係の中で起こる作用であり、個別の他者同士の想いや気持ちが近づくこと、あるいは近づこうとする行為を表す言葉、なのだと思います。

自分の中で腑に落ちたところもあるのですが、実際の面接場面で具体的なことばとしてその技術を使うのは骨が折れるなーとも思いました。

 

 

終盤では、共感しにくい人とのやりとりの方法、例えば愚痴を言う人、共感的態度に拒否的な人、関係上対立する相手、例えば「殺したい」等悪意を抱く人、そして自分の家族、それらの共感しにくい人々をどう考えるかについても述べられていて、その考えはプロカウンセラーとして秀逸なのもさることながら、優しさや含蓄に富むものでもあります。

 

また、しつけや指導における「罰」の使用について、筆者は否定的な意見を述べています。私自身も応用行動分析の専門家として常々スタッフに「罰」を使用することのデメリットを伝えているのですが、なかなか変わらない人がいるのも実状です。

筆者は相手を変化させるためにまずは「相手を信用する」ことが大切だと述べます。どうやらしつけや指導を行う際に「罰」を優先的に用いる人は、相手を信用していないようです。そういえば「罰」を使用する人は、「○○するな」とか「○○しないで」等否定的なことばを多く使っている気がします。自分が正しく、相手は間違っている(相手を否定する)ことから入るのですね。

 

 

カウンセラーを目指す人、臨床心理学を学ぶ人はもちろん、温かい人間関係をつくりたい人や、自分自身を振り返るための本としても役立つと思います。

 

プロカウンセラーの共感の技術

プロカウンセラーの共感の技術

 

 

 

 

(512冊目)熊倉伸宏『面接法』☆☆☆☆☆

一番気に入ったことば「面接法の基礎を学ぶことは、「人間」を学ぶことである。」

 

 

他にも気に入ったことばが盛りだくさん(以下引用文)

面接者は専門家であり、自分一人では専門家になれない。(p.5)

自分には人を助ける力があると過信して、自信たっぷり、面接をする人がいる。面接に来た人に説教したり、自分の考え方や思想や宗教を押しつけたりする。本人は満足であっても、相談に来たこそ迷惑を被っているのである。(p.6)

フロイトやロジャースを読めば分かるように、彼らは、心の相談に来る人と同じように、あるいは、それ以上に、心の世界を、深く探索していく姿勢を持っていた。(p.8)

優れた面接者とは何であろうか、多くの専門知識を持ったうえで、心の相談に来た人を前にして、「私は、この人に何が出来るのだろう」と、自己を深く見つめ直す姿勢を持っている人ではないだろうか。(p.8)

面接を学ぶには、二つの要素が必要になる。第一には、来談者自身から直接、学ぶ姿勢、第二に、良い先生達から直接学び、かつ、有名な本を読むこと。このどちらの要素が欠けても、専門家としては欠点がある。(p.9)

心の相談には、面接者が忘れてはならない重要な、もう一つの役割がある。いわゆる社会資源の有効活用を助けることである。(p.16)

面接の鍵をにぎるのは「不在の他者」である。(p.20)

来談理由を理解するには、それまでの来談者の生活史life historyをしらなければならない。それには家族歴family historyを理解しなくてはならない。(p.27)

来談時不安(p.30)

面接では、面接者が感じたこと自体が、来談者の心を投影する所見である。(p.35)

来談者は悲観的訴えのみを語る。その言葉は面接者の心の深くにある自尊心をくすぐる。(p.36)

観察所見=客観データ+観察者の主観(p.39)

矛盾があるところに、重要な課題が隠れている。(p.46)

面接=聞くこと+見ること+対等な出会い+専門的関係+ストーリーを読むこと(p.48)

重要なことは、「ただ聞くこと」が良かったと言っているのではない点にある。(中略)「自分の気持ちがハッキリするように聞いてくれる」と言っているのである。これが「よく聞く」ということの内容である。(p.51)

初心者は、面接は「よく聞くこと」と教わるが、「よく聞くこと」と「ただ聞くだけ」との区別を教わらない場合が多い。(p.52)

面接では、一つの問いの中に、専門理論、経験、技法の総てが凝縮されている(p.57)

面接者が或るストーリーに思い当たったとしても、それは常に仮説的である。(p.59)

見ること=客観的観察+見守る眼差し(p.61)

来談者とは、面接者を観察する「不気味な他者」でもあるのだ。(p.63)

絶望が苦しいのは、絶望の中に、一分の希望が宿されているからである。(p.64)

人と人との出会いにおいては、総てが新しく、個々の出会いが一回限りであり、新しく来たケースに関しては、誰もが、初心者なのである。(p.67)

面接とは、面接者と来談者の二者関係から、「不在の他者」を扱う技術である。(p.69)

専門知識は、面接者と来談者が二人で歩むであろう、長い旅立ちのガイドブックである。(p.72)

無制限性に支配される誤り(p.77)

障害受容は、自己受容が如何に困難かを知るための言葉として意味があったのだ。(p.85)

自己洞察は問題解決に至るとは限らない。「自己洞察が深まれば死ぬことになるかも知れないのだよ」とは、(中略)石川清先生が教えてくれた言葉であった。(p.86)

究極の問いを「受け止めること」、実は、面接の難しさも楽しさも、ここにある。(p.87)

自分だけ高いところにいて同情するのは、共感ではなく憐みである。(p.91)

土井健郎先生は、「外科医が血を見て卒倒していたら仕事にならないだろう。心の専門家が人の苦しみを直視できないで、どうするの」と笑っていた。(p.93,94)

理論そのものを観察対象とする歓声が、必要である。(p.97)

面接とは、面接者と来談者との二者関係に、「不在の他者」が加わった三者関係である。(p.100)

 

 

「気に入ったことば」にあげた文言は非常に含蓄のあることばで、敷衍すると「面接の中で人間を知る(考える)」ことにも繋がるし、人個人ではなく、人間の「私とあなたの間にある世界に思いを馳せる」ことの基盤ともなり得ると思うのです。

 

 

私の仕事柄、きっちりとした枠組みのある心理面接を行うことはありません。保護者面接に関しては、そのエッセンスを用いることはあります。それでもやはり、臨床心理士・公認心理士として心理面接の基礎に立ち返り、面接者としの自己を振り返る作業は欠かせないと思っています。

 

心理面接を行う方のみならず、対人援助の中で相談を受ける方皆に読んでもらいたい一冊です。

 

面接法

面接法

  • 作者:熊倉 伸宏
  • 発売日: 2002/01/10
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

 

(511冊目)東山紘久『マンガで読み解くプロカウンセラーの聞く技術』☆☆☆

一番気に入ったことば「子供は苦くつらい経験から学ぶものです 親がとがめたり口出ししたり教えたりすることは子供の成長にとって大きなさまたげとなります」

 

以前読んだ原著の漫画版が出ていたので改めて読んでみました。

 

原著よりさらに一般の方にわかりやすい部分をピックアップして述べられている印象でした。

 

以前のブログ(348冊目)で私は、原著に対し☆2つの評価、ブログ内の文章も短くやや批判的な文言を記述していました。当時私は大学院1年目の夏でした。その時は多くの著書や論文、大学院の先生方から学ぶ中でこの本を軽視していたように思います。

 

私は現在、臨床心理士公認心理師として現場で働く中で、以前の学術・研究中心の生活とは異なる環境にいます。

 

改めて原著も読みました。一般向けの文章で書かれているものの、その内容はカウンセラーにとって重要な技術・態度を簡明なことばで纏められている名著だと思いました。

 

このマンガ版は、もちろん一般のカウンセリング技術に興味がある方にはお勧めできますが、専門家にお勧めする程のものではないと思います。

一方で原著はカウンセリングの重要な技術・態度を学ぶために、今の私からすると心理カウンセリングを行う方皆さんに読んでもらいたいくらいお勧めの本です。

 

同じ本でも、個人の置かれる環境や年齢、経験等によって異なる様相が表れるということですね。

 

マンガで読み解く プロカウンセラーの聞く技術

マンガで読み解く プロカウンセラーの聞く技術

  • 作者:東山 紘久
  • 発売日: 2017/09/20
  • メディア: 単行本
 

 

(510冊目)草薙敦子『ドキュメント発達障害と少年犯罪』☆☆☆

一番気に入ったことば「「広汎性発達障害」は事件の「特殊性」を説明するものであって、「発生原因」そのものではない」

 

筆者も強調していますが、発達障害そのものが非行・犯罪の原因とはならないことはこれまでのブログ記事でも記述しました。

 

発達障害が幼少期から明確に現れる場合、対象児の多くは私の専門である児童発達支援他の社会的支援を受けたり、家族からの個別的に支援を受けたりします。

 

一方で所謂グレーゾーンの子や、ぱっと見は(会話していても)定型発達児と区別がつかない子は、定型発達の子同様の扱いを受け、個別的に必要な支援が受けられない場合があります。

 

「広汎性発達障害」という診断基準は、2013年より前に使用されていたDSM4-TRまでの名称ですが、2013年以降の最新診断基準DSM5では、自閉スペクトラム症という名称になり、その基準や範囲が変わっています。

 

広汎性発達障害も割と範囲の広い診断基準であったと思いますが、自閉スペクトラム症もその特性や重症度(軽症度?)において範囲が広いです。

 

その範囲の広さへの批判として、以前は診断基準に満たなかった子も診断されるようになり、問題のない子も発達障害と診断されてしまうと主張する方がいます。

 

私は、DSM5における発達障害の診断基準範囲の広さには一長一短があると思いますが、これまで支援の手が届かなかった子に対して個別的支援が受けられる可能性が高まったり、一般の方の認識が高まったりというメリットもあるのではないかと思っています。

 

但し、まだまだ日本は発達障害に対する支援者の教育が不足しており、欧米に比べ制度も未熟です。

 

これから10年、20年かけて発達障害児支援者の質・量ともに向上していくことを期待しています。勿論私自身もそのための努力を惜しまないつもりです。

 

 

(509冊目)宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』☆☆☆☆

一番気に入ったことば遂行機能障害症候群」

 

最近は発達障害と非行・犯罪に関する本をいくつか読んでいます。

 

というのは、まさに将来の非行・犯罪が懸念されるような児童の支援に携わっているからです。

 

一応誤解の無いように言いたいのですが、発達障害そのものが非行・犯罪の可能性を高めるわけではありません(という統計的なエビデンスがあります)。

 

軽度知的障害、ADHD、養育環境、アンガーコントロールスキル、対人関係の社会的スキル、自己肯定感の低さ、等様々な要因が絡み合って非行・犯罪へとつながっていきます。

 

なのでその子がどのようなリスクを持っているかを明確にした上で、そのリスクを低減していく支援が大切だと思います。そしてそれはその子のもつリスク要因の大きさによって介入方法が異なってきます。

 

この本では概ね、軽度知的障害あるいは境界知能に由来する遂行機能の低さを要因とし、学習の基盤となるような認知機能強化トレーニングを用いて支援すること推奨しています。

 

認知機能強化トレーニングを著者は「コグトレ」と名付けています。コグトレでは、記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断に対応する、「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」課題を行います。

 

私が知っている限りでは、支援学級や支援学校では、この本でも言及されているように、発達障害や知的障害の子に対して社会性に関する学びの時間は少なく、学習支援も単に簡単な学習プリントを繰り返しやらせる等、個々の課題に対応できるような支援は殆どなされていないのが現状のようです。

 

一部の意欲的な教員の方はこの本にあるようなコグトレを導入したり、ソーシャルスキルレーニングを行ったりしているのですが、全体としては発達障害に関する知識や学習支援技術にまだまだ明るくないのが現状です。中には子どもの成長よりも自分がサポートすることに満足感を得ていると思われる先生もいます。

 

これは教員の質の問題ではなく、特別支援教育に関わる教員の全体数の少なさ、特別支援教育の範囲の広さ(神経発達症群と身体障害群では支援の方略が異なる)、特別支援教育の学習指導要領の未熟さといった、国のシステム的な問題だと推察しています。

 

コグトレについては私も良い支援方略の一つだと思いますが、一部で発達障害の子をもつ親の困り感を狙った高額な費用をとる所もあるので気を付けてください。

 

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)
 

 

(508冊目)大河原美以『怒りをコントロールできない子の理解と援助 教師と親のかかわり』☆☆☆☆

一番気に入ったことば「怒りの問題は、哀しみの問題であり、罪悪感の問題であり、人を人たらしめる感情の根本の問題です。」

 

ことばを用いて他者と感情を共有することを感情の社会化と言います。

著者は「思いやりをもちなさい」と伝えると「思いやりが育つ」と考えるのは錯覚だと述べます。

 

私も同感です。「言えばわかる」と思って子どもを育てるのは勘違いだと思います。例えば私の会社では、知的障害が重度から最重度の子どもに複雑なルールや社会的マナーをことばで教えようとする方がいます。そして言うことを聞けないと怒鳴りつける。私は傍から見て悲しい気持ちになります。

 

この本では、まず親が抱きがちの「よい子」に育てようとする考えを、①「他者からみてよい子であることを願う」→叱ることをやめられない親 ②「親に対してよい子であることを願う」→叱るのがこわくて叱れない ③「子ども自身が本当の意味でよい子に育つことを願う」の3つに分類します。そして小さいころに感情を抑制されたこどもが後に問題を表出することをケースとして挙げています。

 

勿論、問題は子育てのみに原因があるわけではなく、発達障害や家族・学校での生活面での不協和といったものも関係する場合があります。

 

援助方法について述べられている章では、対話形式で、一般的な子どもと大人のやりとりと、それを踏まえたより良いやりとりと、著者による解説が載っています。臨床心理士公認心理師ならその違い(技術)について納得するものですが、子どもを変えようとする親や教師にはその違いがわかっても実践できずにずっと平行線のまま伝わらないような気がしました。

 

子どもを変えようと思うなら、まず自分自身が変わらないといけない。それに気付ける人はどれくらいいるでしょう。教育に毒されている人は子どもを下にみて「教える」ことで問題を解決しようとしがちです。

 

多くの人は間違っていると言われることに条件反射的に抵抗感を覚えるし、また、自分自身が間違っていると考えることは苦しいですからね。

 

おっと、私自身もここでネガティブな感情を露わにしてしまいました。

 

著者はポジティブな感情もネガティブな感情も両方大切にしていくことが重要だと述べます。それらは心のエネルギーであり、それらを子ども自身がどう扱っていくのか。

大人は時に子どもに共感し、時に子どもを尊重しつつ、子どもの感情を育んでいく姿勢が求められます。

 

 

 

 

 

 

(507冊目)芳賀茂『絵でみる失敗のしくみ』☆☆☆

一番気に入ったことば「注意喚起はなんら具体的対策にならない」

 

この本はヒューマンエラーについて、そのしくみと対策を心理学の視点から述べたものです。

心理学を元としていることも興味深いですが、著者の経験を踏まえた軽妙な文章や、イラストも相まって、楽しく読むことができました。

 

人は誰しもミスや失敗をしますが、それらが起こりやすい状況や環境、方略の問題等を改善することで、何とか減らしたい。仕事をしている方なら誰しもが抱く悩みではないでしょうか。

 

私自身も、一時期業務上のミスが多くて、この本を手に取ってみました。

 

この本ではあまり言及されていませんが、業務過多で認知資源が不足していたり、仕事上のストレスで軽度のうつ症状が起こっていたりすることもミスや失敗を増やしてしまいます。私の場合そういう時期だったと今では思います。

 

 

絵でみる 失敗のしくみ (絵でみるシリーズ)

絵でみる 失敗のしくみ (絵でみるシリーズ)

  • 作者:芳賀 繁
  • 発売日: 2009/01/30
  • メディア: 単行本