一番気に入ったことば「「受容」「共感」「変化促進」、この三つは、相互に手に手を取り合ってらせん状に深まっていくものです」
この本は一般向けのものですが、カウンセリングの専門家に必読と言っていいほど共感の技術が沢山詰め込まれています。
私自身、カウンセリングの技術についてはそれなりに学んできましたが、それでも尚学ぶべきものがいくつもあったし、改めて気づかされる文言や、考察に値する文言もたくさんありました。
日頃、私が出会った人々の多くは、共感や受容をする人が少なく、それらはカウンセラー等特殊な職業にとっての特殊な技術だと思っていました。
筆者は
現代社会のさまざまな現実が、「身近な人たちに共感してはいけない。そういうものを切り捨ててこそ、豊かに生きることができる。勝ち組になることができる」と暗黙のメッセージを伝えてきます。p.26
と述べます。
どうやら現代社会では、共感することで自分が不利益を被ることがある。逆説的に共感性を排除し他者との戦いに勝ち抜くことが推奨されるようです。それを筆者は「共感への恐れ」と述べます。
それ故に人と人との温かい関係性が失われ、人と人とがやり取りすればするほど寂しさや虚しさが増してしまうのかもしれません。
この本を読んでいて、共感の技術を用いた著者の例文が載っているのですが、最初は読んでいて、この人自己開示、自分の考えを言い過ぎでは?と疑問に思っていました。しかしその疑問に対する筆者の答えが中盤に記述されていました。
共感を伝えるコメントでは、相手の気持ちを話題にすることと、自分の感じたことを告白すること(自己開示)との区別は曖昧になります。共感においては、私とあなたの境界線が曖昧になるからです。それこそが共感の世界になります。p.122
加えて
共感を示すことは、しばしばチャレンジであり、賭けでもあります。(中略)相手のために伝えたいことを伝える。伝えないときっと後悔するから。怖くても、思い切って(ただし穏やかに)そういう想いを伝える。それが共感です。p.131
ここから考察すると、共感とは、話し手と聞き手の2者関係の中で起こる作用であり、個別の他者同士の想いや気持ちが近づくこと、あるいは近づこうとする行為を表す言葉、なのだと思います。
自分の中で腑に落ちたところもあるのですが、実際の面接場面で具体的なことばとしてその技術を使うのは骨が折れるなーとも思いました。
終盤では、共感しにくい人とのやりとりの方法、例えば愚痴を言う人、共感的態度に拒否的な人、関係上対立する相手、例えば「殺したい」等悪意を抱く人、そして自分の家族、それらの共感しにくい人々をどう考えるかについても述べられていて、その考えはプロカウンセラーとして秀逸なのもさることながら、優しさや含蓄に富むものでもあります。
また、しつけや指導における「罰」の使用について、筆者は否定的な意見を述べています。私自身も応用行動分析の専門家として常々スタッフに「罰」を使用することのデメリットを伝えているのですが、なかなか変わらない人がいるのも実状です。
筆者は相手を変化させるためにまずは「相手を信用する」ことが大切だと述べます。どうやらしつけや指導を行う際に「罰」を優先的に用いる人は、相手を信用していないようです。そういえば「罰」を使用する人は、「○○するな」とか「○○しないで」等否定的なことばを多く使っている気がします。自分が正しく、相手は間違っている(相手を否定する)ことから入るのですね。
カウンセラーを目指す人、臨床心理学を学ぶ人はもちろん、温かい人間関係をつくりたい人や、自分自身を振り返るための本としても役立つと思います。