たいやきさんは本を読む

臨床心理士・公認心理師の読書ブログ

友田明美『子どもの脳を傷つける親たち』☆☆☆☆☆

一番気に入ったことば「両親間の身体的な暴力を目撃したときよりも、言葉の暴力に接したときのほうが、脳へのダメージが大きい」


この本は、4月に予定している社内研修(僕の所属している事業所が担当)の参考図書として読んでみました。


内容は、虐待、マルトリートメント(不適切な養育)が脳に与える影響についてです。


マルトリートメントについては、享受する子どもだけでなく、その親のケアも重要です。この本ではその点についても言及しています。


この本の著者は実際子どもを育てる母親であるため、自分のマルトリートメント経験についても語られています。


それが著書の説得力を増すかどうかはともかく、実際の親御さんが養育の中で「失敗したな」、「良くなかったな」と思う言葉がけや行動について
それを振り返り、改善していくことが重要だという視点に同意します。


脳は可塑性に富み、愛着形成や人格(パーソナリティ)形成についても、ある程度はやり直しの効くものだと思います。それ故に
臨床心理士等、僕たちのような心を扱う対人援助職の有用性が社会に認められているのだと思います。


さて、これから児童発達支援や放課後等デイサービスに携わるプロに対して、これまでの振り返りと、(マルトリートメントを行っている指導員に対して)
改善を促すために、僕はどのような研修を行うべきか。


問題意識を持って取り組める人は伝えるだけでいいのですが、仕事として行っているにもかかわらず、問題意識を持てないスタッフも稀にいるのは確かです。


そのような人も含めて、よりよい養育、子どもの支援について考えていける研修内容にしたいと模索しています。



子どもの脳を傷つける親たち (NHK出版新書 523)

子どもの脳を傷つける親たち (NHK出版新書 523)

読了[463冊目]小栗正幸(監修)『行為障害と非行のことがわかる本』☆☆☆

一番気に入ったことば「子どもの特性と育つ環境が影響しあう」



この本は、私が関わる子どもに反抗挑発症が疑われる(診断はついてない)方がいて、その方の理解を進めるために読んでみました。


やや私の希望する(反抗挑発症の)内容とは違ったのですが、「行為障害と非行」を問題とする子どもへの支援や親御さんへの支援については
今後ありそうですし、そのための準備ができたように思います。


この本の特に気に入った個所として、4章の「適切な支援の進め方」です。


臨床心理学的な視点や応用行動分析の視点が必要なだけ、さりげなく取り込まれていると思ったからです。


行為障害や非行は、ある程度年齢の進んだ、判断力がある子どもの問題として扱われることが多いため
その理由を本人(あるいは家族)の問題として、矯正や指導のみで改善しようと考えがちですが、
問題を起こす子ども→何かに困っている、何かに悩んでいる子ども、と読み替えることで改善できる方が多いと思うのですがどうでしょうか?


社会的に)悪い子になりやすい子はいるけど、悪い子にしているのは周囲の人の影響もある。
逆に悪い子になりやすくても、悪い子にならないようにしてあげることも周囲の人はできる。


特に10代は、他者との関係の中で性格や行動が左右されやすい。


私は、子どもたちの健康で幸せな生活のために、大人ができることを考えていきたいと思っています。


行為障害と非行のことがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)

行為障害と非行のことがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)

佐久間徹『広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)』☆☆☆

一番気に入ったことばフリーオペラント法」


著者も本文で言及している通り、この本は応用行動分析や臨床心理学を学ぼうとする学生向けの本です。


この本は著者のこれまでの研究や実体験以上に、行政、医療、福祉の分野・施設についての批判が強く主張されているものです。


この本から伺える著者の実績は確かなものだと思いますが、書籍としては批判や不満が主軸になっており、読んでいて不快感を覚えました。


ただ、フリーオペラント法の手法に関しては応用行動分析を学ぶ私自身興味深い示唆が得られたと実感しており、ここで語られている事柄について
実際の現場で試してみたいと思いました。


実際、以前読んだ『発達障害児の言語獲得―応用行動分析的支援(フリーオペラント法)』から現場で実践していますが効果を実感しています。(研究ベースには持っていけてないのが悔やまれます)


また、第4章「不適応行動への対応」についても、叙述されていることは経験(知恵)だけではなく、応用行動分析の知見によるものであるために、初学者にとっても有用なものであると感じました。


このような(良い意味で)クセの強い先生の存在を感じ、実際会ってみたいと思いました。


広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)

広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)

発達障害児の言語獲得―応用行動分析的支援(フリーオペラント法)

発達障害児の言語獲得―応用行動分析的支援(フリーオペラント法)

本日読了[461冊目]岡野憲一郎『脳科学と心の臨床』☆☆☆

一番気に言ったことば「治療全体を支えているのは、療法家の持つ知識でも技法でもなく、統合する力とそれを基盤にした創造力である。」


この本で得られる脳科学の知識は、僕が既に知っていることが殆どでしたが、著者の逸話や経験談が盛り込まれ、読み物として楽しく読ませてもらいました。


僕自身、臨床心理士心理療法家としては、ある程度の脳科学の知識が必要だと思っています。


既に学んだ事柄でも、このような本でリハーサルしていくことは肝要です。


脳科学と心の臨床―心理療法家・カウンセラーのために

脳科学と心の臨床―心理療法家・カウンセラーのために

[460冊目]ドナ・ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』☆☆☆

一番気に言ったことば「基本的にいつも、間接的なやり方がいいのである」



全体的に読んでいて思ったのは、非常に雑然としていて、ストーリーの意図するところや作者が何を伝えたいのかがわかりにくいなということです。


この本は自閉症自閉スペクトラム症)を抱える著者が、人生を語り、自閉症の世界を語ることを目的として書かれたものです。


自閉スペクトラム症だけでなく、虐待、解離性同一症といった心理的な問題もストーリーの中で語られます。それだけでなく、他者との関わりから高機能自閉症と言われる方が他者に影響されパーソナリティを形成していく過程や、自閉スペクトラム症故に他者との関係のなかで不利益を被る際の一事例として読むことができます。


正直本文はつまらないですが、エピローグとしてまとめられている部分や、訳者のあとがきを読むだけで、自閉スペクトラム症を抱える人に関わる人にとって役立つ示唆が得られると思います。


自閉スペクトラム症自閉症アスペルガー障害・高機能自閉症)を抱える方がどのように社会、世界、または人間関係を捉えているのかについて知りたい方は(面白いと思った人は別に、なぜ私がつまらないと言ったのかを考えながら)一読することをお勧めします。


自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

自閉症だったわたしへ (新潮文庫)

[459冊目]奥田健次『メリットの法則 行動分析学・実践編』☆☆☆☆

一番気に行ったことば「アメとアメなし」


問題行動への対応について、行動分析学の理論を踏まえてわかりやすく説明されています。


こんなにシンプルでうまくいくのか?というくらい明確な対応法が載っていますが、


実際の現場では、問題行動を起こしている個人の特性を知り、行動観察をしっかりした上で
行動変容に必要な環境調節(他者の対応含む)をしていくことが不可欠です。


これからも応用行動分析の書籍を漁って学んでいきたいと思っています。


メリットの法則 行動分析学・実践編 (集英社新書)

メリットの法則 行動分析学・実践編 (集英社新書)

本日読了[458冊目]メアリー・シーディ『言うことを聞かないのはどうしてなの? スピリッツ・チャイルドの育て方』☆☆☆☆

一番気に言ったことば「完璧さを求めるのではなく進歩を」



この本は、著者の提唱する、スピリッツ・チャイルドの育て方、数々の問題行動に対する対処法を紹介する本です。


スピリッツ・チャイルドとは、〜すぎる、子で、「癇が強すぎる」「かたくなすぎる」「感受性が強すぎる」「知覚が鋭敏過ぎる」といった子どもたちです。


spiritedということば自体は、「生き生きとした、創造的な、鋭敏な、熱中しやすい、エネルギーと勇気に満ちた、自己主張の強い性格をした」ということみたいです。


スピリッツ・チャイルドの特徴として、著者は、5つの性格を提示しています。
①とにかく気性が激しい(パニックを起こしやすい)、②手がつけられないほどかたくなな(頑固・こだわりがある)、③とても敏感である(感覚過敏・感情抑制が困難)、④いつでも知覚が鋭い(注意欠如)、⑤変化に適応するのが遅い(スケジュールの変更、気持ちの切り替え苦手)を挙げています。(カッコ内は私の見解)


発達障害、あるいはそのグレーゾーンの子は、ネガティブな印象とことばでスティグマを与えられることが多いと思いますが、スピリッツ・チャイルドということばは、子育てはしにくいけれども、子どものポジティブな特性に注目して、工夫して関わることで、良い面を引きだそうとする意味を含んでいると思います。


ここで扱っている子どもは、一般的には子育てのしにくい子、あるいは発達障害のグレーゾーンといわれる子だと思います。


正直残念な点として、アメリカと日本の子育て文化の違いや、事例(物語?)がメインの構成になっていて、主張が話の内容に埋没していて、拾いあげるのに集中力・注意力が必要だというところです。


よって、子育てに困難を抱える子をもつ親や、発達障害のある子を抱える子をもつ親がいきなり読んでも「???」となりやすいと思います。


ある程度発達障害の知識がある親御さんや、他の発達障害に関する本の副読本として読むのが良いと思います。内容はアドバンス(教科書的な内容から一歩進んだもの)だと思います。


言うことを聞かないのはどうしてなの?―スピリッツ・チャイルドの育て方

言うことを聞かないのはどうしてなの?―スピリッツ・チャイルドの育て方