一番気に入ったことば「人は同じ屋根の下に住んでいる、家族だと思っていた人から除け者扱いされるのがいちばん辛いものです。」
そのとおりですよまったく。僕が犯罪に手を染めないのは単に臆病だからだとしか思えない。
社会には明らかに犯罪だと言いきれないグレーな行為が多く見受けられます。
この本はまるで小説を読むように物語に引き込まれていきました。
前半では山田に同情し、寄り添うような形で記述されていたので、前著『セックスボランティア』にあったような中立的な感じが薄れたなと思っていました。商売のために饒舌になってしまったのかと邪推しました。
しかし後半、他の当事者の声、公判の内容を知り、真相が顕わになっていきます。さらに著者によって前半の内容は山田の発言と文章から構成されていたことが明らかになります。
そこで読者は、おそらく著者が感じたのと同様に山田に対する印象の転換が生じるでしょう。
そして読了後にはなんとも腑に落ちない感覚に陥ることでしょう。
この読後感は、芥川龍之介の『藪の中』ほどではないとしても、登場する人々の証言が少しずつずれている不協和音から起こるものだと思われます。
特にめぐに関わる人々が、それぞれの正当性を持っていて、噛み合わない感じがもどかしい。
そして主役ともいえるめぐも、常に他者の目を通して間接的に語られるため、まったく本人の意図がつかめない。
その様子を読者は著者のフィルターを通してみるわけですが、このフィルターが純粋なもののみ通す為に登場人物の不純物を取り去り、人々の内面を顕わにしていきます。
人の内面を顕わにしながら、また顕わにならない部分も見せる。これは世界の「神の目」を持つ小説家でも困難だと思います。(得てして小説の作者は全知存在なので世界を見せ過ぎる)
なんとも、事実は小説より奇なり。
まさにこれは人間の生々しいドラマです。
- 作者: 河合香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/05/28
- メディア: 文庫
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