一番気に入ったことば「血縁は無条件に母性を保証してはくれません」
精神分析的、文学的母娘関係の解釈です。
個人的には異論こもごもですが、著者は敢えて他の理論を包括的に語ることをせず、ラカン派の精神分析からの解釈を徹底しているようです。
著者の推論が複数の文学作品に依るものなので、どうも説得力に欠ける印象。
というのは、文学作品は、事実+主観的理論から産まれたファンタジーです。そこから事実を探る文学研究は主観的理論に客観的(メタ分析的)な人間観を当てはめることで成功します。
しかし、この本は、著者の主張を、文学作品という事実+主観的理論の解釈の総合というかたちで示しています。
ファンタジーの解釈を事実に当てはまるのには無理があるのです。少なくとも説得力には欠けます。
もちろんファンタジーの中にも事実はあります。けれども事実の主張を保証する論理的構成を見出すのに必要なだけの引用が無い。(もしかして引用されている作品をよく知っている人にとっては説得力あるものになっているのかもしれませんが)
時代の洗礼を受けていない文学作品に普遍的人間観を見出そうとすると大概失敗に終わります。
著者がこの本の欠点に気付きつつ出版に至ったことは、本作の文章の端々に見られます。
フロイトやラカンの著書だけで、思想として著者の主張を述べたもののほうが内容が濃くなったのではないでしょうか。
それでも母娘関係という心理分野に焦点を当て、その重要性に着目したことには意義があります。
母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか (NHKブックス)
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 10人 クリック: 106回
- この商品を含むブログ (61件) を見る