一番気に入ったことば「効果があって簡単にやれそうなことにはリスクがある。」
最初題名を見て、阪神・淡路大震災の事例と東日本大震災の事例をいくつか挙げ、比較検討するという内容を想定していました。
「心のケア」ということばは広すぎて何を意味しているのか掴みにくいように思います。
実際この本の内容も、心理治療に関する心のケアから、一般の人の気遣いや思いやりといったことまで幅広く扱われています。
それでも構成がうまくまとまっているのは、焦点を絞り、構成を吟味する作者の技量によるものだと思いました。
第一章では、東日本大震災直後の加藤寛の活動を通して現場の状況が語られます。第二章では、PTSDと、それに対する認知行動療法を中心に、不安や恐怖のメカニズムについても語られます。第三章では、震災時の問題点と、その対処法についての検討。第四章では、阪神・淡路大震災で被災され、心理治療を受けた2名の体験について。第五章では行政や看護など、現場で支援活動を行うことの実際と、問題点について。
心理治療に関しては、エビデンスと実際の調査に則った記述で好感が持てたし、辛辣な実情に関しても、変に不安や共感を煽るような記述はみられないところがよかった。
そして心理治療を生業とする者は、単に治療室でカウンセリングをするだけでなく、病的な事柄に関する予防もしっかりと視野に入れること、そして治療者たちのネットワークの重要性や、支援者と治療者にも健康面に配慮することの必要性など、教科書で理論的に学んでいたことを実際の現場で行っている人の視点を通して垣間見ることで、今後の自分の活動について具体的なイメージを掴むのに役立ちました。
読了後は、「心のケア」ということばがこの本の主題として適切だと感じました。
- 作者: 加藤寛,最相葉月
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/16
- メディア: 新書
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