一番気に入ったことば「共感」
すごい小説でした。
ザッハートルテとレアチーズケーキを一度に食べるくらい甘くて濃厚で、それでいて苦みと塩味が絶妙な塩梅で次から次へと口に運ぶのがやめられない。そんな中毒性のある思考の渦へと導いてくれます。
普通の小説の2倍読了に時間がかかりました。
人間の本質とは何か。それは社会的動物の根幹である共感。しかしそれをあまりにも強く求め過ぎることは同じイデオロギーを強制するような宗教になってしまいます。
進化心理学的には、共感を持つための動機は自己との同一性にあり、広くは仲間、近しい同胞、そして根源的には自己へと収束していきます。つまり共感は自己保存本能の拡張であるといえます。
しかし他者への共感という概念は、個人と他者の同一性を強調していくことで、自己の存在を脅かすような思考へ向かってしまうこともあります。私は代替可能な他者の一人でしかないのだろうか?
「実存が本質に先立つ」は、まやかしではないだろうか?
主人公リックが自分をアンドロイドではないかと疑問に思う描写は、読者にも同じような不安を抱かせます。
私が人間であること、正常であること、私が私であるという記憶はいったい何が保証してくれるのだろうか?
現在、読了後の虚無感と戦っています。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
- 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1977/03/01
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