一番気に入ったことば「あいつの俤がちらついて俺の目をあざむく。この世は丸ごと、あいつが生きていたことを、俺がそれを失ったことを記す、膨大なメモみたいなものなんだ!」
読み始めは登場人物たちの悪態に不快感を持ちつつも、なぜか楽しい気分で読めました。これは他人の修羅場を絶対に安全な所から眺めている状況に近い楽しみかもしれません。
この本の裏表紙にある紹介文には、恋愛小説と銘打ってありますが、恋愛物語だけでなく、ヒースクリフの復讐劇、サスペンスといった様々な要素が内包されたエンタテイメント小説だと思いました。
また、この小説の面白さとして、主人公ヒースクリフやキャサリン、その娘であるキャサリン・リントンの激情は、語り手である家政婦ネリーとその聞き手ロックウッドという、物語に直接関与しているけれど間接的な当事者である彼女らの目を通して語られることで、絶妙な不信感と共に読者の想像力を掻き立てます。
語り手として常識人のように見えるネリー、そして常に冷静なロックウッドは、物語と読者の関係の中間に立ち「この人たちは直情的で行動を見誤っていて、なんて愚かなんだろう。しかし私は冷静で常に常識的である。」というような自己中心的な世界観を表しているように思えます。
あまりに強すぎる愛情は、例えその人を失ったとしても消えることはなく燻り続けます。憎むことでしか傍にいることのできない悲しみを慰めることはできない。例えそれが過ちだと解っていても。そして世界のあらゆるものごとから思い出と同時に悲しみと憎しみが想起されてしまう。
ヒースクリフに自分自身の経験を重ねて読んでいました。僕が見ている悲しみの世界は、記憶という足枷に欺かれているに過ぎない。そんなことわかっているんだけど、なかなか割り切れないんだよね。まだ大人になれてないともいえる。
- 作者: エミリー・ブロンテ,鴻巣友季子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/06/28
- メディア: ペーパーバック
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