一番気に入ったことば「社会的ジレンマ問題は基本的には人々の心がまえの問題なのではなく社会制度の問題である」
社会的ジレンマは社会心理学の中でも面白いテーマだと思います。
著者は社会的ジレンマの解決方法の一つとして、利他的利己主義が必要であり、それは教育によって培われるべきであると主張します。また、利他的利己主義の実現のためには、構成集団の中に信頼と公正さが必要であり、集団の統制のためには報酬と罰を利用しなければならないということです。
単純に個人の集まりによって集団が構成されるのではなく、集団は集団としての現象を生み出す。だからある集団について考えるとき、構成要因にそれぞれについて個別に考えるだけでは不十分でしょう。
ゲーム理論を用いて語られる多くの経済学の本は、「いかにして勝利し、利益を生むか」を目指しています。この本は近視眼的利己主義より社会の安定性を目標としているもののように思いました。
日本人の特質としてよく語られる「集団志向性」について、日本ではよく個人の利益よりも、集団の利益を重視する傾向があると言われますが、これは日本が欧米に比べて集団間の移動が極めて小さく集団から抜け出すことが比較的困難であるため、相互監視・規制のシステムが強く働いていて、実は他人に対する信頼度が低く、内発的な他者への協力意識が薄くて他者を監視・統制するシステムの維持には協力したがるという話が面白かったです。
一つ一つの論が実験によって組み立てられていて、全体の統一感も考慮されていて、各章ごとにまとめがあり読みやすい良書だと思いました。
巻末には丁寧な文献案内もあるので、大学でこの手の研究をしたい人にはオススメの本です。
社会的ジレンマのしくみ―「自分1人ぐらいの心理」の招くもの (セレクション社会心理学)
- 作者: 山岸俊男
- 出版社/メーカー: サイエンス社
- 発売日: 1990/10/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (11件) を見る